飯舘村除染作業日記 5月14日(水)23日目2014年05月15日

「大いなる田舎・までいライフ・いいたて」

飯舘村の第五次総合振興計画は、三次総・四次総を引き継ぎながら、合併問題の検討と並行して、二年間かけて五次総の作成に取り組んだ。
住民参加、女性の参加、行政職員の参加、福島大学研究者の参加など多様な知が結集して作り上げられた。
までいとは、手間ひまを惜しまず、丁寧に、時間をかけて、心をこめてといった意味の方言で、真手とも書く。飯舘の村民は、親や年寄りから、食い物はまでいに食えよ、子供はまでいに育てろよ、仕事はまでいにしろよと教えられてきた。五次総が基本理念として掲げたスローライフへの理解がなかなか得にくいなか、ある村民の「スローライフって、までいに暮らしていくこどなんだべ」の言葉から、「までいライフ・いいたて」が生まれたという。
計画作成から5年たった2009年、その中間評価・見直しが村民、職員、福島大学の研究者も加わり、村づくりの熱心な議論が続けられる。(「飯舘村は負けない」(岩波新書)
2011年3月11日に東日本大震災に連動する福島第一原発事故が飯舘村を計画的避難地域に変える。
今日2014年5月14日、飯館村八和木地域での除染作業を終えて、大成建設月舘宿舎に戻る。今日の空間線量2.75μSv/h.。18日岩槻安穏朝市へ参加する為、明日朝帰省の準備。

飯舘村除染作業日記 5月15日(木)24日目2014年05月17日

大成建設月舘宿舎。課題は多い。4.5畳で2人入ると布団を敷くだけでいっぱいである。各自のプライバーに問題が出る。
今回の帰省

 一番主要な帰省の理由は、18日岩槻安穏朝市への参加である。16日のジーピーエスでのジーピーエス店朝市準備の打合せ。商品の価格・規格の検討。企画イベントの検討。朝市協力隊メンバーの出欠確認、朝市全体状況の共有等を議論する。濱口朝市協力隊代表が中心に、ジーピーエス野村専務、朝市担当者船山さんと私の4人で議論する。
 二番目の理由は、郵便物や資料等の月一の整理がある。三番目は、銀行振込や散髪等。4番目は各種学習会・講演会・集会案内への対応。なによりも親しき人とのコミュニケーションが大切である。

 飯舘村除染対応のT建設月舘宿舎を6時50分に出た。仲間の作業者の皆さんと挨拶を交わし、靴を履き、建物を出て急勾配の舗装道路を下って行った。
 ワゴン車の車に声を掛けられた。何方に行くのか問われ、福島駅へバスで出ると話すと、乗せてくれた。T建設社員のSさんである。福島駅近くのT建設事務所へ戻るという。
 Sさんから、飯館村の「ミズバショウ」の美しい話を聞いた。Sさんは避難者の皆さんが出来るだけ早く帰宅出来るような環境にしてゆくために除染作業に力を入れているという。T建設をはじめ数十の大手建設会社がJVを組んで技術力を結集して、環境省の方針のもとに福島県各地で除染活動の展開を始めている。パートナーの会社・作業者と共に福島県全体で大成建設傘下だけでも6月2000人、秋7,000人体制で除染作業を推進すると言う。作業員の宿舎や寮が不足しており、民宿や温泉地の宿泊施設を借り受ける場所もある。
 Sさんに問う。特別教育修了証が無いと就けない仕事が有る。操作・技能が有っても特別教育受講と修了証を持っていないとその仕事に就けない。移動式クレーン、玉掛、刈り払い機、チェンソー等々。JVが特別教育・学習会を企画出来ないか。Sさんは言う。今は昔と違って特別教育修了証を持っている人は多い。民間の政府公認の学習教育機関も各地に有る。もし意志が有るならばそのような機関に教育学習を申請して、技能を身に付けて特別教育修了証を容易く手に入れることが出来る。
Sさんは一次下請けのT建設は重機を扱う会社としては日本最大手だという。

飯舘村除染作業日記 5月16日(金)25日目2014年05月17日

トラチョッキは除染作業用服装の必須アイテムとなっている。
ビジュアルについて

若狭谷さん、野村さんから写真を問われている。どのように写真を撮ったらよいか。検討している。
除染作業中に写真をとることは出来ませんので、休憩時間を利用して撮らせていただきました。
除染を通じて人間が暮らせる環境に戻していく作業は必要だと私は考えております。
けれども、除染作業について様々な考え方があるようです。
私は除染作業現場に身を置きながら思い考え、多くの人々が考え、思っていることを知りたいと思いました。
飯舘村は村民と行政、議会、町長、女性、若者、年長者、子供たちを含めて村づくりを進めていました。その飯舘村放射能汚染による計画的避難地域に指定されました。線量が高く人間が暮らしていく環境を超えていました。
それから2年3年と過ぎ、除染作業が開始されています。
記録報告は写真が物言う。写真1枚で実際の状況が鮮明になる。理解し易い。リアルな場面を提供出来る。
けれども写真の説明の仕方で印象が大きく変化する場合が恐い。除染作業には様々な意見が有る。それ故写真を言葉で説明する時、写真が物語っていることを見極めることが大切だと思う。

飯舘村除染作業日記 5月17日(土)26日目2014年05月17日

朝日新聞連載 プロメテウスの罠 不安を消せ!より飯舘村の原発事故直後の状況が掲載

5月10日のプロメテウスの罠 不安を消せ!3 パニック発生を警戒  「このころ政府は、浪江町や、大部分が原発から30キロ以上離れた飯舘村に線量の高い地域があることを認識していた。(国会事故調査報告書)」
5月11日のプロメテウスの罠 不安を消せ!4 「健康上心配はない」!  文科省、2011年3月19日、浪江町の一部の地域で毎時136マイクロシーベルト、飯舘村で59.2マイクロシーベルトと高い線量を観測と発表。
5月12日のプロメテウスの罠 不安を消せ!5 30㌔以上遠くても  2011年3月15日午後6時20分、飯舘村役場前で毎時44.7マイクロシーベルトの放射線量が測定。
5月13日のプロメテウスの罠 不安を消せ!6 ほっとした空気  2011年3月23日、スピーディの計算結果がようやく発表された。
5月14日のプロメテウスの罠 不安を消せ!7 住み続けて大丈夫か 飯舘の土壌汚染は1平方㍍で326万ベクレル。チェルノブイリでは55万ベクレル以上の地域が強制移住の対象。
5月15日のプロメテウスの罠 不安を消せ!8 「避難した方がいい」 佐藤健太氏ツイッター「土壌汚染が心配です。健康に影響が出るのは、子供達が大人になった時じゃないのか?」(27日)
5月16日のプロメテウスの罠 不安を消せ!9 なぜ避難させない? 4日間の積算線量で赤宇木で4813マイクロシーベルト、長泥で2950マイクロシーベルト。
5月17日のプロメテウスの罠 不安を消せ!10 揺れたIAEA見解 2011年3月30日、IAEAは、飯館村の土壌から1平方㍍あたり200万ベクレルを超える放射性物質を検出、IAEAの避難基準の2倍に相当する値だと発表。

飯舘村除染作業日記 5月18日(日)27日目2014年05月18日

岩槻安穏朝市の場から思う

 今日のさいたま市岩槻区は天候に恵まれた。快晴である。30回をむかえた岩槻安穏朝市。
 月1回第3日曜日の朝市出席の為福島県から埼玉県へ戻る。飯舘村の除染作業に身を置きながら、朝市の場から自分の立脚点を思い巡らす。さらに自分の日常生活の暮らし場から見つめ直す。
 日常身を置く場所とは? 放射能汚染が酷く、新たな場所へ日常生活を変えなければならない人々の思い。一人ひとりの思いだけでもたくさんのシーンが駆け巡る。
 先月4月21日飯舘村除染作業に就くために福島県郡山市へ入る。2次下請けG社で「除染等業務従事者特別教育」を受ける。雇用契約書を3次下請けA社と確認。伊達市にあるT建設月舘宿舎に入る。23日T建設Oさんから飯館村除染の概要、村の思い「までいライフ」を聞く。
 築地本願寺の安穏朝市には飯館村村民の方が出展していた。パルシステムの企画で、佐渡の文弥人形と飯舘村佐須太鼓がジョインイベントを銀座で実施したこと。
 
 5月18日朝日新聞 プロメテウスの罠 不安を消せ!11 正しく怖がって 2011年4月1日飯舘村役場前では毎時7マイクロシーベルト、長泥地区では毎時20マイクロシーベルト。

飯舘村除染作業日記 5月19日(月)29日目2014年05月19日

東海クリニック

 今回帰省の目的の一つに、6ヶ月毎に提出を求められている「電離放射線健康診断書・一般健康診断書」の用意の為に、検診を受けることであった。
 前回の2013年11月下旬に4次下請けI社の指示で受診した大田市場内事務棟にある東海クリニックを利用した。1週間後頃に月舘宿舎に送ってもらう。

 今日発売「ビッグコミックスピリッツ」.No.25 6.2号を購入。「美味しんぼ」福島の真実編クライマックス‼で『美味しんぼ』福島の真実編に寄せられたご批判とご意見が掲載されている。福島を考えるうえで様々な示唆を受ける。良し悪し様々な意見と共に注視していきたい。

 福島駅で朝日新聞を買った。福島版に「浪江高齢者から聞き書き証言集」が紹介されていた。ドキュメンタリー映画「遺言 原発さえなければ」の上映会(18~20日福島市)も紹介されていた。安達太良山に1万5000人の登山、去年の2倍が掲載されていた。

5月19日朝日新聞 プロメテウスの罠 不安を消せ!! 12 偉い先生が安心だと 長泥では毎時20マイクシーベルト前後の中で200人余が暮らしていた。

 17時20分の月舘経由川俣行きバスに乗り、月舘宿舎へ戻る。

飯舘村除染作業日記 5月20日(火)30日目2014年05月20日

除染ブルース

 同僚で重機を扱うSさんが「除染ブルースでも作ったらどうか」と以前言った。それを受けてHさんが構想を練った。キーワードを絞り出した。

 福島復興 除染労働 人間関係 
 放射能セシウム 家族 通勤 市町村
 働く事情 金&家族 福島の為
 友達になる 酒 宿舎
 
 他人ばかり 二人部屋
 合う合わない人間性
 日本全国 JV T建設
 ゼネコン 第1次 第2次 第3次

 除染して皆んな帰ってくるのか
 国民のお金 福島県民と会えない
 無人の街美しき村美しき山
 なんでこの空の下に続くだけ

 信らいもグループから生まれる
 これからの福島
 政治家は自分の言葉がない 朗読なさけない
 わけあり人間 失業対策 風評被害


 Hさんのこの言葉をベースに除染ブルースの歌詞をみんなで洗練させていく。完成は秋。誰か作曲者はいないだろうか。

 5月20日の朝日新聞福島地域版(電子版)を除くと、美味しんぼ「福島の真実」編クライマックス!!掲載ビッグコミックスピッツ19日発売は売り切れ店舗が続出したと掲載さえていた。内容の一つ、鼻血と被曝の因果関係は科学的でないとのコメントがある。

 5月20日朝日新聞 プロメテウスの罠 不安を消せ!13 講師は知っていた 4月11日政府は震災から1ッ月後に飯舘村を「計画的避難地域」にすると発表。

飯舘村除染作業日記 5月21(水)・22日(木)、31・32日目2014年05月25日

雨天作業

 21日、雨天の中を草刈・集草作業が行われた。重機を扱っていた人や玉掛作業者等も集草作業を行った。休みを取った人々も月舘宿舎には大勢いた。私は刈り払い機講習を受けていたので、有資格者として草刈作業を行った。雨に濡れながらの作業であった。第1次下請Y建設傘下で30人からの人達が作業に入った。
 22日も朝から雨天の中をY建設傘下では,八和木地区の草刈・集草作業を行った。

 
22日は雨天の中を前田・八和木地区事務所には全体で450名からの作業者が集まった。
今日のフレコン作りは、昨日同様中止。その為月舘宿舎のY建設関係者の多くは、草刈・集草を除き、本日休業である。仮り払い機講習修了者他数名が仕事に就いた。休業者は賃金は出ない。
本日のKYは、草刈集草での「足元注意!」。南相馬市から通勤しているKさん(職長)が唱和の先導役。「足元注意は良いか!良し!」3回続ける。最後に「今日も安全にがんばろう!」
 午後雨は上がったり降ったり、カッパを脱ぐ気にはならない。作業中は汗まみれだが、じっとしていると寒くなる。
 本日の空間放射線量は、2.75μSv/h。私の今日の被曝線量は、0.008ミリSv/8h。各人に提供されている個人線量計はミリ単位である。
 
 15時30分より、飯舘村役場道路向かいにあるJV事務所会議室で安全衛生教育を受けた。講師はOさん。細かい事故の積み重ねから大きい災害へつながること。些細な事故を注意して、日常の安全対策、リスクマネジメントの大切さを述べられた。建設現場研究会のビデオ学習会を140名の作業員の皆さんと共有した。リスクの洗い出し、リスクの見積もり、リスク可能性の見積もり、リスク除去低減の検討と実践、リスクの記録等。KY(危険予知行動表)の質を高め、事故の低減をはかりたいとOさんは言う。
 

 5月21日朝日新聞 プロメテウスの罠 不安を消せ!14  「100%安全ですか?」 菅野慎吾氏「放射能のレベルは安全だというが、土壌は汚染されている。子供が遊んでいて土を口に入れるかも知れない。危険なら危険とはっきり言って欲しい」
 5月22日朝日新聞 プロメテウスの罠 不安を消せ!15  一か月後の避難指示 「計画的避難地域」事故発生から1年間の積算放射線量が20ミリシーベルトに達成する恐れのある地域が対象で、飯館村は全域が指定されることになった。

飯舘村除染作業日記 5月23(金)・24日(土)、33・34日目2014年05月25日

草刈作業

 23日(金)朝礼時、JV担当者から報告。T建設社長が本日飯舘村除染作業の視察。社長の除染作業者への言葉、「天皇陛下は除染作業者のことを存じており、自信と誇りを持って仕事に取り組んで下さい。」を紹介した。それから飯舘村地主の中には、同じ原発事故被災者でも有るが、除染作業を承認していない方もいる。地図上で確認し、入り組んだ地形境界の中で、無断使用に細心の注意をはらって下さい。
 
今日は、好天に恵まれた。けれども除染作業で削り取った乾田や牧草地は水の溜まっている箇所が目に付く。その為乾いた土山の一部のみをフレコン詰め作成にする。重機のオペレーターも集草にまわる。私は草刈作業。
八和木地区の美しい田園風景。その中に心身をおいて仕事が行えることはうれしい。この地域の空間線量は2.75μSv/h。この線量数字は、この地で作業する者は、問われた場合回答出来るように知っておく。除染作業をする上で作業者の必要事項になっている。自分が身を置く場所の空間線量の認識も重要視されている。マスクや二重の手袋(綿手・ゴム手)、保護メガネ、ヘルメット、鉄心入り長靴、トラチョキ等除染作業スタイルで仕事に臨む。

24日(土)、新緑へと深まる5月下旬の飯舘村。前田・八和木地区除染作業事務所は、昨日と同様460人からの作業者が集合。ラジオ体操と朝礼を行う。本日の体操は、作業員インストラクターの趣向で健康体操。元柔剣道場後広場の事務所スペースは作業者と通勤・作業用車両の増加で体操の為に広がると狭い空間になる。
本日の草刈・集草作業は、草刈方法・方針を再確認。除染の草刈として、草の根っこから抉りとる草刈方法を草刈者全員で確認。その為昨日の草刈の遣り直しから開始する。
根っこから土を抉り取る草刈方法は、蟻や様々な昆虫、さなぎ等々生き物たちの住処を削りとる。慌てふためく昆虫たちの姿。ある時は居場所を失ったたくさんの蟻たちが狼狽えている。こんなことをしてまで除染をするのかと思いが生まれる。昆虫・微生物へのいたわり、ヒューマニズム感に襲われる。生きるとはこのようなものか。人間は植物や動物の命をいただいて生きているではないか。除染の草刈作業で命を失う昆虫や微生物。人間が生きていくためにはしょうがないこと。私の草刈作業で1日どのくらいの昆虫の命が失われるか。植物の命が失われるか。このようなことを考えるとせつない思いに落ちこむ。

 5月23日朝日新聞 プロメテウスの罠 不安を消せ!16  「心配ない」の真意 放射線の環境影響の「語り方」については、・・・「どのようなときも事実そのものを伝えることが大事だ」といった声があがった。
 5月24日朝日新聞 プロメテウスの罠 不安を消せ!17  自分で判断し生きる 菅野栄子氏(78)「放射能に侵されても、山河の姿は変わりません。村の自然は人々が戻るのを待ちわびています。」

飯舘村除染作業日記5月25日(日)、26日(月)、27日(火)35、36、37 日目2014年05月28日

疲労感

 今日25日は日曜日。4人の仲間作業者と共に必要物資の買い物と夕食材料購入で伊達市へ出かける。
 伊達市のルーツ、伊達家ゆかりの柳川八幡神社と龍宝寺の長い参道を歩く。周辺は素朴な植栽で彩られ、政宗の持つきらびやかな武士像とは趣の異なる印象を受けた。来る途中、曹洞宗の興国寺に立ち寄る。この寺には伊達政宗と戦ったことがある須田長義の墓ある。
 ホームセンターのコメリで段ボールを購入。段ボール机をこしらえて、パソコンを乗せる。今まで畳にパソコンを置き使用していたが、使い易くなる。
 日曜日の宿舎生活、除染作業以外の事を行う。仕事以外の行為だ。しかし意識の奥にはそれがある。日常生活の中で仕事がいかに大きいことか。仕事を思う。仕事の事を考える。
 草刈作業は、刈り払い機を肩から吊ったベルトにお腹の辺りで固定して使う。一日中刈り払い機を使って仕事をしていると、首から肩にかけて疲れが残る。人それぞれで、長身の人は腰部が疲れるという。しばらく、刈り払い機を使った草刈作業が続く予定になっている。先週は草刈機を使う仕事が多かった。慣れぬ仕事に疲れたのだ。そう思った。

 26日(月)一週間の始まりである。今日は曇天の空である。農業や建設関係の仕事は、5月下旬の強くなった直射日光に晒された炎天下より曇り日の作業が動きやすい。私まで回ってこなかったが、ヘルメットに付けて使う日除けネットが支給された。首ねを直射日光から守る。JVが作業者に気を使っていることは確かである。仕事に向かう作業者のメンタルな側面にもJVの気使いがある。KY(危険予知行動表)もその一つだど思う。これは企業側にも労働側にも両面利益がある。KYは作業前に作業者全員で作業の危険性を確認する。KYの内容も各々の仕事内容に因って違う。草刈・集草の場合は足元注意!が大きい。この言葉もグループの職長を中心に全員の発想から生み出し作り出す。KYは仕事への主体性を問われる。特に建設関係の現場では、災害低減に直接繋がる。作業員の意欲を喚起する。KYは集団的創造へも繋がっているように思える。KYについては、具体的に別の機会で触れたい。
 肩の上部に疲れが残っていたが、草刈機を担いで、自分の草刈場に向かう。草刈機(刈り払い機)を動かしている場合、周辺15メートル以内に立ち入らないことが原則になっている。草刈刃が小石を跳ねたりして危険である。そのような草刈機の紐を引っ張り、エンジンをかける。草刈機の周辺、近くには誰も近づかない。話しかける人、小声をかける人もいない。インナートリップの世界である。
 朝方雲の上の橙色のお陽様を見かけたが、今日はお日様を一度も仰がなかった。陽の光が無いと物足りないが、凌ぎやすい一日であった。
 月曜日、仕事初日だというのに、背中上部に疲労感がある。未だこの仕事に身体が順応していないのだろう。見渡すと強肩そうな若者、壮年の筋肉が整った精悍な人達。美しい身体に鍛えあげている人を見かける。ところが私は疲労感に狼狽えているさまだ。

 27日(火)、昨日夕方から朝方まで雨模様であった。朝5時半、雨は上がっているが厚い曇り空である。昨日同様しのぎ易いか。露面が濡れていて仕事が難しいか。けれども出勤である。6時半、月舘宿舎の窓から見える山端を霧が上っていく。雲の切れ目から空の青と日差しが見えた。光がさしてきた。青空の下で仕事をしていると、一日の天気がこんなに気になるとは。
 午前10時半休憩後、雨が降ってきた。雨カッパを着た。天気は結局、午後3時過ぎに晴れ模様となる。
今日は、刈り払い機が9台に増えた。草刈9名。集草20名ほど。雨模様の為、土塊をフレコンへ詰める作業は中止の為、その要員が草刈・集草グループに入ってきた。3台の刈り払い機の到着が遅れた為、私は暫く道路掃除に回った。ダンプカーが往来する度に道路に土が付く。タイヤに付着した土が道路に落ちる。それを掃く。限がないが、大切な飯舘村の道路である。
 草刈はただ草を刈ることではない。除染としての草刈である。地表から1センチから3センチほど抉りとる。草の根っこから切り出す。土塊も一緒に抉りとる。ユンボが出来ない路傍の土手、田んぼの畔などを刈り払い機で草刈と共に土切である。放射線が比較的高い。刈り払い機の燃料はガソリンとオイルである。その煙の臭いと音と振動は時々不快になる。
 17時が終了時間である。終了間際に土塊山にシートを被せる仕事が出る。段取りが悪いとみんなが不満不評を言う。16時半に指示を出せ!と言いたい。
 帰って洗濯である。作業着や長靴が泥まみれである。けれども今日一日こうして仕事を終え無事であった。昨日499人、今日は512人の作業者が当事業で働いた。高齢者も相当いる。この除染事業は環境省の管轄であるが、失業対策事業の側面もあるのだろうか。
 疲れは身体的なものだけでは無く、心理的な要因が大きいことは確かだ。見知らぬ人々が集まり、仕事から寝泊りまで一緒である。仕事での気使い、宿舎生活での同僚への気使い。けれども、生きるとはそもそも気を使うこと。共に生きるとは、気使いとか労りである。ならば、気使いは当然のことであろう。では何故疲労感を覚えるのか。おのおの自分を個に追い詰め過ぎた結果か。近代とは個の目覚めだと言う。同僚のほとんどが個室を求めている。他者への気使いから自分を解放したい。2人部屋から個室を求める人が圧倒的に多い。疲労感が他者への気使いから生まれているなら、間違った方向に来てしまったのか。それとも誤解から疲労感は生まれているのだろうか。
 除染作業に就きながら、思わぬ問題にぶつかっている。疲労感は奥行が深そうである。